学校で「四大公害病」というのを社会科の授業で取扱ったのを覚えているでしょうか。四大公害病は工場から出る排煙や排水が、人体にも尋常ではない悪影響を与えることを最初に証明することとなった4つの病気です。
そのなかでも「水俣病」と「イタイイタイ病」の2つは周辺地域の水質汚染に起因する、国内で最初の病気です。
今回は水質汚染のはじまりである「水俣病」と「イタイイタイ病」について紹介します。
水俣病とは
水俣病は1950年代に熊本県水俣湾で発生した公害病です。人類史上、食物連鎖によって人間に発症した最初の病気でもあります。メチル水銀によって引き起こされる神経疾患で、工場の排水に含まれていたメチル水銀が貝類や魚類に蓄積され、このメチル水銀を大量に含有した貝類や魚類を人間が食べることで発症します。
はじめは手足の痺れからはじまり、次に脳がダメージを本格的に受け始めることで言語障害、歩行障害、耳鳴りや難聴があらわれます。さらに重篤なケースでは意識不明になったり、死亡したりするような危険な疾患でした。
軽度の症状の場合でも視覚や聴覚に影響があるために日常生活に支障をきたしたり、それまで働いていた職業を失ったりする人が相当数いたとされています。
原因
水俣病の原因物質はメチル水銀ですが、正確な原因物質と原因究明にはとても長い時間を要しました。当時の医療では有機水銀を正確に検査する技術はなく、原因物質の候補から水銀は外され、別の物質が水俣病を引き起こしていると考えられていたこと、工場の排水が原因と確認したときに工場側から研究結果の発表を禁じられたこと、公式に研究結果を発表しようとしたときに東大医学部などから反論をされたことなどが原因で、正確な原因物質の特定にはかなりの時間がかかりました。
当時、有機水銀を含む工場排水を水俣湾に流していたのは「チッソ」という会社です。チッソは工場で酢酸や塩化ビニールの原料となる「アセトアルデヒド(発がん性のある大気汚染物質)」を作るときに無機水銀を使っていましたが、その時に生成されていた有機水銀をなにも処理せずに水俣湾に流し、知らないうちに大規模な環境汚染を行ってしまっていました。チッソは現在、化学繊維などを製造しています。
イタイイタイ病とは
イタイイタイ病は1910~1970年代に、神通川下流域の富山県で発症例が多くみられた公害病です。はじめは腎臓障害が起こり、便秘や頻尿がみられます。次に身体全体の骨が脆くなる、骨量が減少するといった「骨軟化症」があらわれはじめ、筋肉に力が入らない状態が続き、次第に歩行をすることも難しくなります。最終的には寝たきりの状態なり、極端に骨が脆くなっているのでくしゃみをしたり、軽く身体を動かしたりするだけで骨折してしまう状態になります。
原因
イタイイタイ病の原因物質は「カドミウム」です。現在はカドミウム単体ではなく、カドミウムと当時の低蛋白、低カルシウムなどの食生活に関する問題が合わさってイタイイタイ病が発症したのではないか、という見方もあります。
カドミウムが神通川に混入した原因は、神通川の上流である高原川にあった「三井金属鉱業神岡鉱山亜鉛精錬所」から流れていた排水が関係しています。高原川に排水が流れ、その水が神通川に入り、神通川の水で作った米を食べたり、飲料水として使ったりしたので、神通川周辺地域の農家が多く感染しました。また、水俣病の時と同様に当時はカドミウムと病気を関連が考えられていなかったので、イタイイタイ病の被害をなかなか抑えることができなかったことも大きなポイントになっています。
おわりに
水俣病やイタイイタイ病などの公害病は、一過性の流行り病などとは比べ物にならないほど社会へ影響を与えました。また、今なお水俣病の認定を求める人や被害を訴える人が大勢いるため水俣病患者の正確な人数は判明していません。新潟でも発生した「新潟水俣病」も含めて、公害病は今後も社会全体で考えるべき問題です。
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